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仙台地方裁判所 昭和26年(行)9号 判決 1955年6月08日

原告 大内友三

被告 仙台市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、昭和二十四年六月三日附通知を以てなした仙台市大町五丁目二十七番宅地八十四坪三合四勺同二十八番宅地八十二坪一勺、同二十九番宅地百十坪九合七勺の換地予定地の指定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  被告はその施行に係る仙台市特別都市計画区劃整理のため、昭和二十四年六月三日附通知を以て原告に対し原告所有の請求の趣旨記載の宅地三筆(別紙図面表示(イ)点から順次(ロ)(ハ)(ニ)各点を経て(イ)点に復する線で囲んだ部分)に対する換地予定地として三十二ブロツク三十一号約二百六坪、別紙図面表示の(イ)点から順次(ロ)(ヘ)(ホ)各点を経て(イ)点に復する線で囲まれた部分を指定した。原告は右指定に不服なので、法定の期間内に宮城県知事に対し訴願を提起したが、同知事は右は訴願事項に非ずとして内容の判断に入らないでこれを却下した。よつて原告は当地方裁判所に右裁決の取消請求の訴を起し、昭和二十五年十月二十三日原告勝訴の判決を得、同知事は仙台高等裁判所に控訴を申立てたが、昭和二十六年三月十四日控訴棄却の判決があつて確定した。宮城県知事はその後未だ本案についての裁決をしないが、原告の訴願提起の時からすでに行政事件訴訟特例法第二条但書所定の期間を経過した。

(二)  右換地予定地指定処分には、以下に述べる違法がある。即ち、

(1)  原告は前記三筆の宅地の外、その附近に数筆の宅地を所有しているがこれに対し、被告のなした換地予定地の指定の状況は次の通りである。

(い)  請求の趣旨記載の本件土地三筆合計二百七十七坪三合二勺に対し換地予定地二百六坪

(ろ)  仙台市東一番丁十七番宅地五百九十七坪七合七勺(その位置は別紙図面参照、以下同じ)に対し、換地予定地四百三十三坪

(は)  同丁二十番宅地二百五十四坪三合五勺及び、同丁二十一番宅地百四十二坪に対し、換地予定地二百五十八坪

(に)  同丁三十番の二宅地七百坪に対し、換地予定地六百六十九坪

ところで、本件(い)の宅地三筆は(ろ)(は)(に)の宅地に勝り、原告にとつては最も貴重な場所である。されば原告は年来これを自ら使用すべく、他人には貸さない方針を堅持し、現に訴外板垣金造、高橋憲太郎、西内広、森豊次郎、郡山実法等との間に借地権の存否をめぐり幾多の訴訟を重ね、これに勝訴し、その確保に努力し来つた。被告は原告にとつてかように貴重な場所であるのに拘わらず、前記換地予定地指定により北端部七十坪余(別紙図面表示(ハ)点から順次(ニ)(ホ)(ヘ)各点を経て(ハ)点に至る線で囲んだ部分)を削減し、その一部を新設道路用地とした外は大半を訴外高橋憲太郎所有の仙台市東一番丁六十三番宅地の換地予定地に割当てた。

然しながら右訴外人所有の右宅地はその位置、等位上到底本件土地に比肩すべくもなく、かかる換地予定地の指定は、特別都市計画法において準用する耕地整理法第三十条の定めに適合しない。

元来前記(い)(ろ)(は)(に)(別紙図面表示参照)の如く、同一人が数個の宅地を所有する場合は、なにも被告がしたように数個のグループに分けて換地を割当てなくとも、全部これを一団として所定の減歩をなすことは一向差支えないのであるから、右のように原告の最も愛着措く能わぬ場所はこれをその侭原告に保持させるべきで、これより劣等の土地の換地とするためにこれを割くべきではなく、所定の減歩は右一団中の他の一部からこれを求めれば足りる。されば被告にして若し原告の所有地内から右訴外人所有の前記宅地の換地予定地を求めんとするならば、よろしく右土地の位置、等位に鑑み、これにふさわしい(は)若くは(に)の土地からこれを求むべきである。

前記耕地整理法第三十条の規定は、土地の所有者が不当に従前の所有地よりも低い価格の土地に換地を指定されることを防ぐものであると共に、自己の所有地をそれよりも低位にある他人の土地の換地とされることからも保護するものと解すべきである。故に原告に対し、その所有の従前の(い)の二百七十七坪三合二勺の土地から、これよりも価格上低位にある訴外高橋憲太郎の前記所有地の換地予定地とするためにその一部を割き、その残余を原告の前記土地の換地予定地として指定した被告の行政処分は違法である。

(2)  訴外高橋憲太郎は、前記東一番丁六十三番の宅地、其所が将来道路になるということを聞知して終戦後になつてから安価にこれを入手し、被告所管の仙台市役所復興部当局に運動して、前記換地予定地を獲得したものである。因みに当時右復興部にあつて整地課長として換地予定地指定事務上枢要の地位にあつた訴外早坂松三郎は兎角の風評のある人物である。

(3)  被告は従来換地予定地の指定については、関係人の意見をきゝ、又減歩すべき土地に相当する他の土地を提供する者に対しては、従前の所有地の減歩を免れしめるという便宜の措置を与えた事例すらあるのに、原告に対しては一片の予告もなく、全く抜打的に本件指定通知をなし来つたもので、甚しく不当な処置といわなければならない。

以上の次第であるから、被告のなした前記行政処分の取消を求めるため、本訴請求に及ぶと陳述し、

被告主張の事実中、前記は(は)(に)の土地には被告主張の者等が借地権を有し、その地上に建物を所有していることは認めるが、右訴外人等が被告に対し借地権の申告をしたことは知らない。仮にそのような事情があつたからとて原告主張のような換地予定地の割当をすることが不可能ではないと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の(一)の事実、(二)(1)中(い)(ろ)(は)(に)の点、右(い)の土地中減歩に係る部分を訴外高橋憲太郎の所有地の換地予定地に指定したこと、(二)(3)中被告が原告主張のような便宜の措置をした事例のあること、以上の事実は認める。(二)(1)のうち原告が(い)の土地を原告主張のような方針で所有し、右土地をめぐり、原告主張のような訴訟が係属したこと、及び(二)(2)の点はいずれも不知、(二)(1)中訴外高橋憲太郎の所有地に対する換地予定地たる(い)の土地の一部と同人所有の従前の土地との等位に原告主張のような懸隔があることは争う。即ち、原告所有の大町五丁目二十七番宅地の等級は七十六級、二十八番宅地は七十七級、二十九番宅地は七十八級であるが、これ等の土地のうち訴外高橋憲太郎の換地予定地に指定した部分は、その北端部であるから、その実際上の等位はその北隣東一番丁十七番宅地七十五級の等位に近似するものとみるべきである。

故に右訴外人の従前の所有地たる東一番丁六十三番宅地七十五級との間に、原告のいうような著しい差等はない。

原告は訴外高橋憲太郎の前記所有地に対しては、原告所有の(は)(に)の土地から換地予定地を割当てようというけれども、(は)のうち東一番丁二十番宅地には訴外柴田量平、小西しま、高山七郎の建物があつて同人等から被告に対し、特別都市計画法施行令第四十五条に基く借地権の届出があり、訴外高橋憲太郎のため換地予定地を割当てる余地がなく、同二十一番宅地は表通りに面しないから、東一番丁通りに面する右訴外人の所有地の換地とすることは公平を欠くことゝなるし、(に)の土地については訴外高石孝治、浅野久祐、根縫綾子等の借地人から被告に対し、借地権の届出があり、又その一角には北条伊平所有の取毀若くは移転に適しない鉄筋コンクリート造りの建物があり、借地権の届出はないが原告との間に借地契約をなした訴外小湊光代が建物を所有しているなど、この宅地からも高橋憲太郎のため換地予定地を求めることは到底不可能な事情にあるから、被告が右訴外人所有地の換地予定地として原告所有の本件土地の一部を割いたことは適法であると述べた。(立証省略)

理由

原告主張の(一)の事実は、当事者間に争がない。右事実によれば、原告の本件訴は適法である。

よつて本案につき判断する。

先づ原告主張の(二)(1)につき考察するに、原告所有の仙台市大町五丁目二十七番ないし二十九番宅地合計坪二百七十七坪三合二勺(以下本件土地と略称する。)につき、被告が昭和二十四年六月三日附を以て原告主張の範囲をその換地予定地として指定し、減歩に係る北端部分は、その一部を新設道路用地に、その大半を訴外高橋憲太郎所有の同市東一番丁六十三番宅地の換地予定地に各指定したこと、原告は本件土地附近にその主張の(ろ)同市東一番丁十七番宅地(は)同丁二十番二十一番宅地(に)同丁三十番の二宅地を所有しており、被告は、右(ろ)(は)(に)を原告主張のように減歩して換地予定地を指定したこと、以上の事実は当事者間に争がなく、原告本人尋問の結果により、原告は本件土地を自ら使用する目的であつたので曽てその一部を訴外郡山実法に対し一時使用のための借地権を設定したことがある外は、他人に貸さない方針を堅持し、訴外板垣金造、高橋憲太郎、森豊次郎、西内広等から罹災都市借地借家臨時処理法による借地権の存在確認訴訟を起されたが、すべて勝訴したことを、又鑑定人畠山正の鑑定の結果により、右換地予定地指定当時における前記高橋憲太郎の所有地の一坪当りの時価は、約金一万八百円であるのに対し、本件宅地のそれは約金一万八千円で、その間相当の格差のあつたことをそれぞれ認めなければならない。原告は、本件土地が原告にとつて最も貴重なものであるとの故を以て、本件土地中前記東一番丁六十三番の換地予定地とした部分はこれを削減せずに原告に保有せしめ、その代り右換地予定地とすべき土地はその価格上均衡のとれる前記(は)(に)何れかの土地からこれを求むべきであると主張する。然しながら都市計画施行のための土地区劃整理により、道路の新設或は拡幅、緑地地域の新設過小宅地の適正規模化等のため、区劃内の土地各筆が公平に一定の減歩を分担しなければならないのは理の当然であつて、仙台市特別都市計画においても昭和二十二年十一月十五日同市告示甲第二十一号により土地区劃整理地区内の土地に対しては、原則として二割四分七厘の減歩をすることゝなる旨の告示がなされたことは当裁判所に顕かである。されば原告のように、土地区劃整理地区内に数筆の土地を所有する場合(別紙図面参照)においても、その各筆が減歩されるのは当然であつて、原告のいうように一の所有地につき本来なすべき減歩をなさず、これを他の所有地の所定以上の減歩により彼此相補うということは、土地区劃整理及び換地処分(換地予定地の指定もこれに準じて考うべきである)の性質上、それ等数個の土地が所有権以外の権利の目的になつていないとか、そのような指定をしてもなお区劃整理全般の遂行上別に支障がないとか、その他特段の事情のある場合に限られるべきである。ところで本件の場合、原告が本件土地を削減しない場合の代替地として挙示する(は)(に)の各宅地には被告主張の賃借人等があつてその地上に建物を所有していることは当事者間に争がなく、この事実に原本の存在並に成立に争のない乙第二号証の一、二及び証人佐藤芳太郎の証言並に弁論の全趣旨を綜合すれば、賃借権その他の使用権が附着せず、且つ東一番丁通りに面する宅地である前記東一番丁六十三番の換地予定地を右(は)(に)の宅地から右のような条件を具えたものとして割当てることは殆んど不可能であつて原告のいうような換地の割当をしても妨げない前述特段の事情はないことが認められるから、如何に原告が本件土地に愛着の念を持つているからとて所詮それは原告一個人の都合だけの事柄であつて、原告主張のような換地予定地指定の仕方をしないことを以て違法な処分であるとすることはできない。

原告は又特別都市計画法により準用される耕地整理法第三十条の規定は、土地所有者に対し従前の所有地よりも低価な土地をその換地として割当てられるようなことはないということを保障するものであると共に、自己の従前の所有地をそれよりも低価な土地の換地とするために割くことからも保護する趣旨の規定であるとなし、以て前記認定のように、本件土地よりも低価な東一番丁六十三番宅地の換地予定地を本件宅地からこれを割いたことを以て、原告に対する本件土地の換地予定地の指定を違法ならしめる原由であると主張する。

然しながら右耕地整理法の規定の解釈に関する前段の所論は兎も角、その後段の見解には、にわかに賛同し得ないものである。のみならず本件宅地の換地予定地の指定処分にあたり、原告主張の減歩をしたのは、原告がいうように訴外高橋憲太郎所有の仙台市東一番丁六十三番地の換地を其所に指定するために割いたと直ちに結びつけて考えることがそもそも誤りだと云わなければならない。何となれば、そのような減歩をなしたのは実は右具体的な六十三番の土地のためという以前の問題として先に説示した如く、区劃整理地区内に存在する以上均しく甘受せねばならぬ負担としてなされたもので、その減歩に係る部分を何人の如何なる土地の換地予定地として割当てられるかはもはや原告の容喙すべからざる問題だというべく、従つて訴外高橋憲太郎が前記のように有利な換地予定地の指定を受けても、これに因り何等原告の権利が害せられるところがないものといわなければならない。それ故原告(二)(1)の主張はすべてその理由がない。

次いで、(二)(2)の点に付按ずるに、原告本人尋問の結果により、訴外高橋憲太郎が本件宅地内に前記換地予定地を獲得するについて、市議会議員野路清蔵を介し、仙台市当局に或種の運動をした事実を窺い知られないではないけれども、その余の主張事実についてはその証明なく、従つて右認定事実だけでは何等原告に対する本件行政処分を違法とするには足らない。

よつて、(二)(3)の主張につき考えるに、仮に従来被告が原告主張のような取扱をなした事例があつたとしても、換地予定地の指定につき、事前に土地所有者その他の関係人の意見をきゝ、或は事前にその予告をなすべしとする何等の根拠もないから、本件の場合左様な取扱をしないことを以て違法だとすることはできない。

以上の次第であるから、本件換地予定地指定処分の違法を唱え、その取消を求める原告の本訴請求は理由がなく、排斥を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 新妻太郎 飯沢源助 金子仙太郎)

(図面省略)

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